公共システム研究室(鳥取大学)

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人口低密地域のアクセシビリティと活動ニーズの分析 pdf_icon.gif
石丸 翼
 公共交通サービスの計画は,住民の活動ニーズに着目することが有用である.これは,住民が自律的に形成した活動ニーズを住民自身が把握していることを前提とする.しかし,多くの分野において,著しく制約された機会は,人々のニーズ形成に影響を及ぼすことが論じられている.そこでは,機会に一致するような作用を受けてニーズが形成されることが指摘されており,人口低密地域のように,長期に渡って低水準のアクセシビリティしか確保されていない地域に居住してきた住民は,そのアクセシビリティに影響を受け,実現可能な活動の周辺にのみニーズを形成する作用を免れない可能性が否定できない.すると,活動ニーズは必ずしも住民が自律的に形成したものではなく,活動ニーズのみに着目する計画の妥当性に疑問が生じる.そこで,本研究では,「活動の機会は人々の活動ニーズの形成に影響を与える」という仮説を設定し,それを複数のアプローチにより検証する.


機能と設計主体の階層性を考慮した複合施設型インフラストラクチャの設計方法に関する研究 pdf_icon.gif
伊藤 有一
 現在,PFI事業では性能規定型発注の導入が進んでおり,民間企業が新技術・新工法を採用することが容易になっている.それと同時に,多目的な用途をもつ複合施設型インフラストラクチャにおいては,ある部分の性能自体の決定も民間企業に委ねられている場合がある.例えば空港において,商業施設のサービスの内容については民間企業が決定している場合が多い.本研究では,複合施設型インフラストラクチャの機能が階層構造をもつことに着目し,各階層の機能をどの主体が決定することが最適であるかについて考える.その際に,空港や公園といった複合施設型インフラストラクチャが複数のモジュールによって構成されていることに着目する.そして,ある部分のモジュールを競争入札により参入した民間企業が設計する方法や,モジュール間のインターフェースの設計のタイミング等がどのようにインフラストラクチャ全体の設計の効率性を高めるかについて検討する.


公共交通サービスのシビルミニマム水準設定に関する基礎的研究 pdf_icon.gif
菅原 正人
 自家用車を利用できない人々の生活を支えるために,公共交通は必要な交通手段である.このため,財政事情の逼迫などに伴い,公共交通サービス水準を切り下げるにしても,そのような住民の生活を支えるための最低限の水準,すなわち,シビルミニマム水準を明らかにし,それを確保することが不可欠である.シビルミニマムは,憲法25条に基づく概念とされ,その言葉は広く世間に知れ渡っている.しかし,それを具体的に設定するための方法は全くと言ってよいほどない.そこで本研究では,生活に支障が出るほどのサービス水準であれば,人々はその状況に適応できなくなり,その結果,サービスに対する主観的評価値がアクセシビリティで表されるサービスの客観的評価値の変化に敏感に反応することになり,両者の相関が高まるという仮説を設定し,それを検証する.さらに,それらの相関関係の有無に着目してシビルミニマム水準を導出するアプローチを提案する.


路線バスの運行実験の設計手法に関する研究 pdf_icon.gif
竹内 隆博
 多くの市町村でコミュニティバスなどの運行実験が行われている.運行実験は,その期間における利用者のOD交通量など,本格運行を検討するための情報を収集することを目的として実施するものである.つまり,住民にとって便利な路線を設計する本格運行とは異なり,どの区間にどれだけの利用者がいるのかを明らかにし,本格運行のリスクを減じる目的を持っている.その一方で,運行実験といえども,ある程度の利用者数を確保し,運行実験のコストを小さくすることが必要である.しかし,これらの目的を達成するために,どのような考え方で運行内容を決定し,そこで得た情報を用いてどのように運行内容を修正するかについての手法はこれまでに十分には検討されていない.そこで本研究では,実験的にバスサービスを供給することを各区間の利用者数を学習する機会の行使としてとらえ,どの機会を行使することが効率的かという観点で運行実験を設計する手法を,動的計画法を用いて検討する.


停留所別乗降者数データに基づくバス利用者ODパターン推計法に関する研究 pdf_icon.gif
月岡 修一
 バスサービスにおける利用動向,特にODパターン(乗車地点間別利用者数)は重要なデータである.しかし,バスカードシステム未導入の路線では調査員が手作業で計測するため,人件費等の資源の投入が必要になり限定的な調査しかなしえていない.この限定的な結果を拡大し年間データとして用いるため,不十分なデータにより決定した運行補助額に過不足が生じるという問題が発生している.先の研究では,バスの停留所別乗降者数を基にしたODパターン推計法を提案した.その結果,長期間の集計レベルのものについては比較的高精度の結果が得られた.しかし,その値さえ真値とは乖離が生じるため,既存の方法で低コストかつ高精度の年間データが求められるならばその推計法は意味をなさないものになる.そこで本研究では,特徴により分類したバス路線に対して推計計算を行った際の両者が有する誤差を比較することで,使用目的に則した推計法の適用可能な範囲を特定し,提案した推計法の有用性を明らかにする.


水道システムの更新計画に関する評価モデルの開発 pdf_icon.gif
松岡 良彦
 高度経済成長期に敷設した水道システムが更新時期を迎えている.更新には多大な費用がかかるため,効率的な更新計画が必要となる.一般に,水道システムは,多くの部分要素から構成されているため,システムの更新計画を策定するには,全ての要素に関する更新パターンの組み合わせ中から最も効果の高い選択肢を見出す必要がある.しかし,この方法は膨大な計算量を要し,大規模なシステムには対応できない.この点を克服するため,遺伝的アルゴリズムによる計算方法や経験に基づく方法が提案されているが,最適解が得られる保証はない.そこで本研究では,水道システムの総期待割引コストを最小とする更新計画を導出するモデルを動的計画法により構築する.さらに,そのモデルを用いて更新計画の構造を解析的に明らかにする.これにより,何らかの方法によって導出された更新計画が,総期待割引コスト最小化の観点で最適性の条件を満たしているかを評価することが可能となる.


地方における中心市街地の活気と住民の交通行動、公共交通の維持可能性に関する理論的研究 pdf_icon.gif
森本 寛之
 地方では公共交通の利用者が少なく,自治体にとって公共交通サービスの維持が問題となっている.一方,住民にとっては,各路線の便数が少ないことによって公共交通が不便な手段となっている.そのことは住民が中心市街地へ出向く機会を減少させ,中心市街地で営業する魅力的な店舗やサービスの存在が住民に認知されないまま経営不振に追い込まれる可能性をもたらしている.本研究では地方における中心市街地の活気と住民の交通行動の関係を,店舗と住民のマッチングの構造をモデル化することにより分析する.住民が頻繁に中心市街地に出かけるようになれば,より高い確率で新しい店舗を発見し,中心市街地へ出向く頻度が増加する.その結果,中心市街地への公共交通の需要が増加する.また,本研究では自治体による中心市街地活性化対策と公共交通維持対策が密接に関係していることを指摘するとともに,両対策への予算配分の考え方について提案することを目的とする.

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2005年度 卒業論文

都市と地方における民営化後のインフラ管理のガバナンスに関する一考察 pdf_icon.gif
大森 基紀
 インフラ施設を民営化する場合,民営化会社の利潤追求行動によって地域格差が生じる可能性がある.本研究では高速道路を具体例に,会社が都市と地方の高速道路に対して,どのように料金や品質(サービス水準)を設定するかについて分析する.分析の結果,政府が料金か品質の一方を規制すると,会社は都市の道路の品質を上げたり,料金を下げたりして,都市と地方の厚生の差が拡大することが判明した.本研究では会社によるインフラ管理が社会的最適水準に近づくような政策について分析する.


道路交通サービスの質に対する評価の空間的集計構造
須田 佳孝
 より安全で快適な道路交通サービスをドライバーに提供すべく、サービスの質に対するドライバーの認識・評価構造をモデル化する試みがなされてきた。ドライバーは個々の道路区間におけるサービスの質を独立に評価しているわけではなく前後区間の影響を受けているものと推察されるが、既往モデルではそのような評価構造となっていないため,必ずしもドライバーの認識を的確に表現し得ていない。そこで本研究では、区間の順序効果等を考慮しうるよう評価モデルを改良し、走行実験データによりその妥当性を検証する.


水道システムにおける管路更新の優先順位に関する考察 pdf_icon.gif
八木 基裕
 近年では多くの水道システムが更新時期を迎え,大量の水道管路を効率的に更新するための計画の策定が緊急の課題となっている.このため,実務では更新管路の優先順位を決定するためのガイドラインが作成されている.しかし,順位の決定方法は経験による点も多く,理論的な妥当性は必ずしも明らかではない.そこで本研究では,マルコフ決定過程を用いて更新に関する数理モデルを構築し,既往の優先順位の考えかたの根拠について検討する.


リスクの負担能力を考慮したバスサービスの運行委託契約に関する研究 pdf_icon.gif
蘆田 哲也
 バス利用者数の減少により採算性を確保できないバス路線が増加しており,多くの自治体はバス事業者の赤字不採算路線からの撤退を防ぐために補助金投入や運行委託を行い生活交通の確保に努めている.その際,必要なサービスが提供されるようバス事業者との間でサービスの品質協定を結ぶことが望ましいが,両者間の情報の非対称性による非効率や事業運営のリスクに対処する必要がある.そこで本研究では情報の非対称性とリスクの分担方法に着目し,バス事業の経営効率化が達成されるような運行委託の契約方法について検討する.


ソーシャル・キャピタルを考慮した災害復興住宅政策に関する一考察
荒木 絵梨奈
 被災者の生活や被災地の復興にとって住環境形成は最も重要な問題のひとつである.被災地では応急仮設住宅や災害復興公営住宅における,高齢者集中によるコミュニティ弱体化や孤独死が問題となっている.本研究では災害復興公営住宅における高齢者,障害者などの「要介護者」の優先入居政策がもたらす,短期的な福祉と長期的なコミュニティ形成コスト間のトレードオフの関係に着目し,ソーシャルミックスに配慮した人口定着とコミュニティの自律的な成長を目的とした住宅政策について分析する.


「身の丈にあった小さな役所づくり」のための方法論的研究 pdf_icon.gif
大近 翔二
 地方財政が逼迫する中,単独存続を選択した自治体はとりわけ厳しい財政状況下で行政サービスを住民に提供しなければならないという困難に直面している.住民にとって最小の負担で最大のサービスを享受できるよう施策を厳選することが事態打開のためには不可欠であるが,サービスの価値を最もよく知っているのはその受け手である住民である.そこで本研究では,住民自らがサービスを選択しうるしくみを組み込み,従来の提供者側からでなく利用者側の観点に立った「身の丈にあった小さな役所づくり」を実現する方法論を構築する.


交通量観測期間の最適化に関する研究 pdf_icon.gif
小林 伸之
 道路の断面交通量調査データは交通容量推計や交通運用の基礎資料として利用されているが,交通量の観測期間に関しては明確な選定方法がなく,実務的には五分間交通量等が用いられている.観測期間が長いと交通量の変化を捉えきれない反面,あまりに短い観測期間だと変動が卓越し信頼できるデータとは考えにくい.そこで本研究では,上記のトレードオフ問題を定式化し,最適な観測期間の導出方法を提案する.


地方交通計画のためのアクセシビリティ指標に関する研究 pdf_icon.gif
牧 修平
 地方交通計画の立案に際しては,路線バスや鉄道などの公共交通が人々にどれだけの活動の機会を保証しているかを把握することが重要な視点となる.活動の機会を表す指標としてアクセシビリティ指標が提案されている.しかし,それは空間的な制約下での機会を考慮したものであり,ダイヤや目的地が固定されていることに伴う,何時に当該の活動ができるかという時間的な制約は十分に考慮されていない.本研究では,時空間的な制約下でどれだけ多様な生活パターンが実行可能かを評価する指標を,時空間プリズムの概念を拡張して開


地方都市における中心市街地のアクセシビリティと循環バスの利用に関する研究
松鹿 聖史
 住民の足を支えるために,多くの地域の中心市街地では循環バスが運行している.循環バスの利用者数は地域によって異なっており,それが各地のバス事業の経営に大きな影響を及ぼしている.利用者数はバスの利便性だけではなく,バス停近くの居住者分布や,都市施設の配置など,中心市街地の空間的特性に依存していると考えられる.そこで,本研究では中心市街地の空間的特性を説明変数とし,バスの利用者数を求めるための簡便な推計式を統計的手法を用いて導出する.


災害による精神的被害のモデル化と計測方法に関する一考察 pdf_icon.gif
森 健治
 本研究では自然災害による精神的被害の計測方法について提案する.家計の最適消費・資産形成モデルを定式化し,災害によって,家計が市場で購入できる資産のみならず,自身が時間をかけて作り上げる財産や,心の健康状態が損なわれた場合の行動の変化を導出する.そして家計の労働時間データや,祝物や娯楽サービスの消費データより精神的被害を推計する構造を記述するとともに,実際に計量を実施するうえで必要となる条件について指摘する.

最終更新:2016-09-28 (水) 16:27:38