公共システム研究室(鳥取大学)

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2003年度 修士論文卒業論文はこちらです)

災害リスクの不認知に起因する外部経済性に関する研究 pdf_icon.gif
江崎 史昭
 社会全体が効果的に自然災害リスクに対処するためには,個人による災害リスク管理行動と政府による防災施設整備を効果的に組み合わせることが重要である.近年,洪水ハザードマップ等を通じた災害危険度情報の公開が進んでいるが,住民は必ずしも危険度情報に対応した居住地選択や耐震補強,保険購入を行っていない.本研究では個人が災害リスク情報を合理的判断によって無視している点に着目する.個人は,多くの住民が氾濫河川流域に居住すれば政府が堤防整備を行わざる得なくなることを合理的に予測して危険地域に立地する.結果的に社会全体に無駄な堤防整備支出が生じる.本研究では個人の災害リスクの不認知が,土地市場の均衡を通じて,リスクを認知して安全な地域に居住する家計,防災投資支出を行う政府や社会全体の厚生に与える影響について分析する.また,一部の家計がリスク情報の学習を回避して災害保険を購入しないことが保険市場に与える影響について分析する.


広域バス路線の補助金負担における利害調整に関する研究 pdf_icon.gif
鎌仲 彩子
 多くの地域において,路線バスは住民にとって不可欠の交通手段である.このため,従来自治体は運行により生じる赤字をバス事業者に補助し路線バスを維持することで生活交通を確保してきたが,利用者の減少に伴い補助拠出額は大きな財政負担となっている.この背景のもと,複数の自治体が行政区域をまたぐ広域のバス路線を共同で設定し,利用者の移動ニーズに応えることで収益を改善するとともに路線や運行内容を効率化することで費用の削減を図る取り組みが見られる.これにより関与自治体は補助拠出額の削減が可能となるが,その実現には拠出額の負担に関する利害調整が要請される.そこで,本研究では広域のバス路線を導入している事例を調査し,補助金負担を協議する過程の背後に想定されていた公平性の規範を協力ゲーム理論を用いて推定し,その規範を満たす利害調整過程を検討することで,広域のバス路線を円滑に実現するための利害調整方法を提案する.


複数の構成要素からなるシステムの集合的維持管理に関する研究 〜水道システムを対象として〜 pdf_icon.gif
國井 大輔
 水道は市民生活や経済活動を支えるのに必要不可欠な社会資本であり,故障によってその機能が停止すると社会全体に甚大な被害を及ぼす.故障を防ぐためには水道システムの適切な維持管理が必要であるが,その構成要素である水道管の量が膨大であり,財源も限られているため,いかに低コストで効果的に水道システム全体の維持管理を行っていくかが重要な課題となっている.従来,維持管理政策を導出するモデルが信頼性工学において提案されてきた.しかし,それらの多くは単一の構成要素からなる施設を対象としたものであり,個々の水道管を個別に管理する場合には有効であるが,それら全体を一括して管理する場合には個々の水道管の適切な管理が全体にも適切である保証は必ずしもない.そこで本研究では,複数の構成要素からなる水道システムを維持管理するためのモデルを構築し,維持管理政策の構造を明らかにするとともに,その有用性を実データを用いて検証する.

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2003年度 卒業論文

コンフリクト解析手法を用いた代替案評価手法の開発
菅原 正人
 公共事業が行われると住民や企業などの利害関係者に影響が及び,それぞれの主体は様々な意思決定を持っているためコンフリクト(利害対立)が起こる.これを調整する一つの方策として第三者が代替案を当事者に提案し,望ましい事象に誘導することが行われている.しかし,代替案の追加により,コンフリクトの構造がどのように変わり,その結果,第三者が想定していた現象に至るかは必ずしも容易に理解できるものではない.そこで,本研究では代替案が第三者にとって誘導したい事象となるための当事者の選好構造を,コンフリクト解析手法を用いて導出するためのアルゴリズムを開発する.


広域バスネットワークの形成に関するゲーム論的研究 pdf_icon.gif
石丸 翼
 自治体は厳しい予算制約下で,より効率的な交通を提供するために,複数の自治体による広域バス路線を設定し,関係自治体で補助費用を共同負担することが考えられる.しかし,補助金負担方式が複数存在する場合,どの方式を採用するかに関して自治体間に利害対立が生じる.その結果として,各々が想定していたバスサービスが実現する保証はない.本研究では,ある補助金負担方式が採択されたときに,自治体間の利害対立の結果,どのような路線ネットワークが形成され,各路線にどのようなサービスが提供されるかを導出するモデルをゲーム理論を用いて構築する.


災害リスク認知と保険行動,被災体験の関係に関する統計的分析 pdf_icon.gif
一瀬 剛
 我が国の地震保険の普及率は低く,また地域間で地震保険の加入率に差がある.本研究では過去の被災体験に焦点を当てて,家計の地震リスク認知と保険行動の地域間格差について考察する.被災履歴の異なる2つの地域を対象としてアンケート調査を行い,回答結果に数量化理論?類を適用して,直接的な被災体験や間接的な災害学習等が地震リスク認知のレベルに与える影響について分析する.また,家計の地震保険購入行動と家屋の耐震補強行動を同時に考慮した離散選択モデルを定式化して,回答結果よりそれぞれのリスク管理行動に付随する心理的費用について推計する.


性能設計におけるリスクコミュニケーションの方法に関する理論的研究 pdf_icon.gif
伊藤 有一
 現在,構造物の耐震化規制の分野で性能設計の導入が進んでいる。代表的な性能設計では,専門知識を有する設計技術者が利用者に構造物の性能の概容を簡潔に伝える目的でパフォーマンスマトリックスが利用されている。本研究では設計技術者が利用者へどの程度の精度で耐震性能を伝えればよいのかを検討する。本研究では,地震被害が建物自体の性能と利用者による種々の備えの有効な組み合わせによって減少する点に着目し,利用者が構造物の性能を学習した上で防災行動を選択するモデルを用いて,効果的な性能表現について分析する。


ドライバー認識に基づく走行サービスの質の評価に関するモデル解析
小坪 英公
 ドライバーは安全で快適な走行を実現させたいと願い運転している.しかし交通渋滞に巻き込まれ時間短縮が実現できないなどの望ましくない現象が多々存在する.そこでドライバーの感じる道路交通サービス水準をミクロな評価モデルによって定量的に表現する試みがなされてきた.しかしドライバーの持つ道路交通サービス水準の評価構造のなかでも評価の集計構造については不明な点が少なくない.そこで本研究は既存のモデルを改良することで道路交通サービス水準の評価構造の解明を図る.


待ち時間の不効用を考慮した公共交通の需要構造に関する研究
真田 健太
 地方では都市と較べて公共交通の便数が少ないため,移動の際に待ち時間が発生する.本研究では個人の生活の充実感が様々な場所における活動の積み重ねによりもたらされる点に着目し,一日の活動から得られる総効用を用いて地方における公共交通のダイヤを評価する枠組みを定式化する.


生活交通サービスの調達における集団意思決定に関する実証的研究
竹内 隆博
 住民による生活交通の調達が見られる.バスダイヤは各利用者の一日の行動に不可避的な影響を及ぼすため,住民が利害の調整をしつつ集団でダイヤを設計することは困難である.このため,住民の集団意思決定基準を知ることができれば,その基準のもとで導出されるダイヤを住民にまず示すことで,効率的にダイヤを設計することができると考えられる.そこで,本研究では住民がどのような集団意思決定基準に基づいてダイヤを決定するかを実験を用いて明らかにする.


水道システムの漏水対策に関する研究
松岡 良彦
 現在の社会は水の安定的供給に支えられており,水道管が故障した場合,社会には多くの損失が発生する.このため,低コストで重大な故障が発生しないような水道システムの維持管理が必要となる.しかし水道管は地中にあり,当該の地区全体でどれだけの漏水が生じているのかを水道管理者は特定できるが,その地区に敷設されているどの水道管でどれだけの漏水が生じているのかを把握することはできない.そこで本研究では,その状況下にある水道管理者の維持管理政策をマルコフ決定過程を用いて構築し,実際のデータを用いて漏水対策を設計する.


震災時における救急医療システムの評価に関する研究 pdf_icon.gif
森山 弘將
 近年,阪神淡路大震災などの大規模地震が発生している.被災地では,交通・通信網の混乱やライフライン遮断による医療機関の機能不全,また円滑に傷病者の搬送が行えないなどして診療機能が低下している.このように,震災時には救急医療システムの機能が低下し多くの犠牲者が発生している.本来,救急医療システムは搬送と医療の双方の観点から総合的に評価すべきである.しかし,既存の研究においては,地震時の被害がシステムに影響を及ぼすということとの関連付けがなされていないためシステムがきちんと評価されていないという現状にある.そこで本研究では震災時における救急医療システムを救命率というアウトカム指標により評価する手法を提案する.


停留所別乗降者数データに基づくバス利用者のOD分布推計モデル pdf_icon.gif
月岡 修一
 バスサービスに対する利用者の動向は,サービスを適切に供給するための最も基礎的なデータである.しかし,バスカードシステムを導入していない路線でOD パターンを把握するためには多大な資源投入が必要であり,それが故に断片的な調査結果のみで運行補助額を決定せざるを得ない自治体が存在するなど様々な問題が発生している.本研究では,比較的簡単に計測できる各停留所別の乗降者数を基にODパターンを推計する方法論を構築するとともに,実態調査を行って推計精度を評価し,提案した方法論の妥当性を検証する.

最終更新:2016-09-28 (水) 16:27:38