公共システム研究室(鳥取大学)

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2002年度 修士論文卒業論文はこちらです)

高速道路流入部における走行挙動を踏まえた加速車線長設計法に関する研究
原口 晃
 高速道路流入部の幾何構造設計に際しては,道路のサービス水準の主な要因である走行円滑性と安全性の双方を定量的に評価しうる方法論であることが望ましい.流入車の走行挙動は流入部の幾何構造と交通特性に依存しているため,両者の関係を的確に把握し,実態に即した設計を行う必要がある.既存の研究において上記に留意した設計法を提案しているが,相前後する流入車を独立に扱い相互関係を考慮していないため,必ずしも実態にそぐわない点がある.また,流入部上流端における交通量の車線分布は幾何構造に依存しているにもかかわらず,外生的に与えている.これは,幾何構造の差異が車線分布に及ぼす影響が解明かつ考慮されておらず,整合性を欠くものとなっている.そこで本研究では,走行挙動に支配的影響を及ぼす幾何構造要因である加速車線長を取り上げ,加速車線流入車の相互関係を考慮した流入挙動モデルと車線分布形成モデルを開発するとともに,それらを組み入れた加速車線長の新たな設計法を提案する.


補助金負担方式が広域バスサービスに及ぼす影響に関する研究
米村 圭一郎
 道路運送法の改正に伴い,生活交通の確保が中山間地域の自治体の緊急課題となっている.多くの自治体は厳しい予算制約に直面しており,より効率的に交通を提供することが求められている.その一つの方策として,複数の自治体にまたがる広域バス路線を設定し,関係自治体で補助費用を共同負担することが考えられる.しかし,補助金負担方式がいくつか存在する場合,どのような方式を採用するのかに関して各自治体間に利害対立が生じる.しかし,全ての自治体が利害を主張する結果として,各々が想定していたバスサービスが実現できる保障は必ずしもない.そこで本研究では,ある補助金負担方式が採択されたときに,各自治体の利害対立の結果,どのような路線ネットワークが形成され,各路線にどのようなサービスが提供されるかを導出するモデルをゲーム理論を用いて分析する.また,そのモデルをベースとして,実務者が容易に用いうるような利害調整支援ソフトを開発する.

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2002年度 卒業論文

災害リスクの認知構造と保険購入行動に関する研究
徳永 剛
 地震保険の普及率は低い水準にとどまっている.原因の一つとして,家計が「自分は災害に遭遇しない」という信念を形成して,保険を購入しないことを決め込んでしまう行動が指摘されている.本研究では家計がそのような信念を形成するタイミングについてモデル分析を行う.家計が居住環境を決定する時点で信念を形成する場合と,災害保険購入の選択を行う時点で形成する場合の心理的コストを比較して,どちらの場合がより合理的であるのかを検証する.


ゲームにおける均衡解選択基準に関する実証分析
奥本 孝之
 ゲームの均衡解が複数個存在する場合,そのなかからどれが実現するかを特定する基準については現時点で定説がない.そこで本研究では,いくつかのゲーム的状況を設定して実験を行い,先に提案された利得と選択確率の同時推定法を用いて,プレイヤーが現実にどのような均衡解選択基準に従って行動しているかを実証的に分析した.検討した範囲ではリスク支配型選択基準が実現しているケースが多くみられた.


道路サービスへの利用者評価に関する研究
北島 巳幸
 運転環境をドライバーのストレスと対応づけた既往のモデルは,区間内のミクロな局面におけるサービス水準は表現し得ているものの,区間全体で見たマクロなサービス水準まで表現し得るかがまだ検証されていない.そこで本研究では,高速道路上で実験走行を行い,直面する運転環境に対するドライバーの主観的評価結果を収集し,同時に記録した運転環境データを上記モデルに入力して得られるサービス水準評価指標との比較を行いモデルの説明力を検証する.


ダムの撤去事業における費用・便益配分に関する研究
岩倉 幸司
 河川環境の悪化やダムの堆砂などにより,ダムの撤去が今後の重要な課題となっている.しかし,ダムの撤去には有害物質の放出など,河川環境を以前に増して損なうリスクを伴う.このため,ダムの管理者は他の管理者による撤去を待ち,その結果を学習した後に撤去することを選好しうるため,結果としてどの管理者も撤去を進めない状況が生じる.そこで,本研究ではダムの撤去が効率的に実施されるための費用・便益配分手法を確率ゲームを用いて検討する.


過疎地域を対象としたバスサービス集団選択支援システムの開発
高倉 謙悟
 乗合バス市場の規制緩和により,過疎地域ではバスサービスの維持が困難になりつつある.本来交通生活システムは地域住民が自分達の手で作り上げていくことが望ましいが,自分達にとって利便性が高い生活交通とはどのようなものかを判断することは容易ではない.そこで本研究では個人の利便性を評価するモデルを組み込んだ対話型ソフトウェアを開発し,集落の住民が全体の利便性と個々人の利便性のバランスを考慮しながらバスサービス代替案を検討する手法を提案する.


コミュニケーションを考慮した都市犯罪の構造に関するモデル分析
永田 健太郎
 都市は多様な主体に就業機会を提供して一国の生活水準を向上させる一方で,犯罪を多発させている.本研究では都市において所得格差とコミュニケーションの困難性が犯罪を誘発している構造に着目し,個人の犯罪行動についてモデル化する.さらに地方出身者が都市の治安をも考慮して都市への移住を決定する行動をモデル化する.そして効果的な都市防犯の政策について分析する.


維持管理政策に着目した水道システムの改善効果の計測モデル
廣瀬 友和
 代替性が確保されていない水道システムは故障に対して脆弱であり,その改善は水道管理者にとっての緊急の課題となっている.そこで本研究では,代替性のない水道システムの改善が通常時における水道管理者のとりうる維持管理政策を拡張することに着目して,被災・故障等に生じる損失の軽減額を評価するモデルをマルコフ決定過程を用いて構築する.その上で,導出された軽減額と従来の費用便益分析におけるそれを比較し,本モデルの有効性を示す.


路線バス事業における費用配賦に関する研究
藤田 康宏
 路線バス事業の経営においては,路線毎の費用の把握が不可欠である.従来は各路線の走行距離に基づいた費用配賦を行うことでそれを算出しているが,導かれた配賦費用の合理性が不明である.このため,バス事業者が自治体に補助を要求したり路線の撤退を住民に説明する場面において各路線の費用の根拠を示すことができない.本研究では,協力ゲーム理論を用い,現行の方法に代表される実務的な配賦方法が満たしうる公理を明らかにする.


実データを考慮したレベル2地震動のモデル分析
南田 高志
 防災計画において想定する地震規模の上限は,生起する可能性のある地震動のみならずリスクに対する人々の意識や防災投資に費やす資源の量にも依存する.本研究では地域社会の保有する富を,防災投資と地震保険,および生活に必要な財の三者に最適に配分するという条件下で,地域社会が耐え得る地震規模の算出法をモデル化し,種々の要因が想定すべき地震の上限規模に対してどのように影響を及ぼすのかについて検討する.

最終更新:2016-09-28 (水) 16:27:38